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当然だ。
何と返せばいいのか、今の私は呆けた顔をしているだろう。すると彼はしたり顔でこう言うのだった。
「大丈夫。橘の手、ちゃんと生きてる温もりしたよ」
そこで私は、完全に言葉を失った。
呆れたのではない。ただ、そう。驚いた。そんなの、論を俟たないことなのに。改めて言われて、自分が生きているのだと実感する。
「今は確かに冷たいけど、運動したり熱い料理食べたりしたら温かくなるだろ。それこそ、生姜食べるのもいいし。それとか、結構歩いたしそろそろ指先、熱くなるんじゃない? 生きてりゃ当然、冷たい時だってあるよ。逆に、橘の手が俺より温かい時も絶対にある。そんな気にすることないと思うけどな。まあ、何か対策をするに越したことはないけどね」
そう言いながら、俊介が再び歩き出す。気付けば、坂を登り切っている。ここまで来ると、私達の家まであともう少し。
私も無言で彼の後に続いた。僅かな静寂。その後、俊介は「それに、」と続けた。
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