青紫の

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「指先の冷たさが心の温もりと関係があるって話? 言わせておけって。そんなの結局、何の意味もないんだから。そのやりとりを端から見て、どっちのが温かいか冷たいかなんて分かる奴には分かるんだし。少なくとも俺は、橘が十二分に優しい奴だってことは分かってるし。文句も何も言わず俺のペースに合わせてくれて助かってるよ。マジで」  そう言って私の自転車のリアキャリア(後輪に備えてある荷台)に置かれた俊介の荷物を見遣った。対する私は、俊介を視界に捉える。左足がギプスに固定され、慣れつつある松葉杖で歩いている彼。彼の両親は共働きのため、代わりに私が下校時に限り帰宅の手助けをしている。母親にそう言われたこともあった。  だけど、先にいつもペースを合わせてくれていたのは俊介の方なのだ。  ──これくらい、やるよ。当然じゃん。  そう言いたかったのに、何故か私は口を開くことができなかった。照れているのかもしれない。必死に何かを言おうとして結局出てきた言葉は短く、「まあ……」だった。  そうして、先程の俊介の手の冷たさを思い出してようやく、手の温もりなんぞが彼の優しさを体現できていないことを理解したのだ。  私が俊介の優しさを知っているように、彼も私の優しさを認めてくれている。詰まるところ、そういうことだ。
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