青紫の

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 そうして思案している間に私達の家が目下に迫った。  俊介の家の玄関前には階段があり、俊介は一人でも大丈夫と言うが、私はいつも彼が家に入るまで手伝っている。今日もいつもの如く彼の荷物を持つ。俊介はいつもと違って遠慮することなく、一段一段ゆっくりと階段を上った。それが、彼の優しさだ。 「荷物、ありがとう。助かるよ」  俊介がそう扉を閉めたのを見届けて、私はようやく、彼に感謝の言葉を述べ忘れたことに気付いた。明日、きちんと言わなければ。今はこの形容し難い感情の余韻に浸り、払拭された悩みにお別れを告げよう。そう考えながら歩き出した時、体の芯が熱を発しているのを感じた。次第に指先がじんじんと痺れ、熱を急速に帯び出す。  私は覚えず自分の爪を見た。それはまだ立派な死人のような爪だった。それでもそこから、生きている温もりを感じる。脈打つ感覚がしっかり伝わってくる。青紫色ながら、確かな温もりだった。
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