青紫の

1/9
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

青紫の

 この季節がやってきたのだと、自分の手を見て実感した。  死人のような爪をしている。実際に死人のそれを見たことはないけれど。  半分より先は白く、対する根本はいかにも血色の悪そうな見事な青紫。特に爪の面積が広い親指は、その特徴が如実に現れていた。  これは、末端冷え性の宿命だ。指先だけではない。胴体を残し上肢と下肢、つまり腕と足の付け根から先が、熱を発することを忘れる。まるで死んだように。 「言い過ぎだって」  ぎこちない挙動で左隣を歩く俊介は苦笑した。私は彼を横目で捉え、そのまま自転車を押している自分の手を見る。寒波の影響で気温は氷点下を達しているのに防寒されていない両手はかじかんで痛い。  この青紫色の爪を友人に見せたことがあるが、それを「死人のよう」と評され、誰かは「気持ち悪い」とまで言い切った。だがそれでも、確かに死んではいないので。 「……確かに、ちょっと言い過ぎたかも」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!