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食料や調味料が入った袋とお弁当箱を抱えたまま、エレベーターのボタンを押して待つ。チラリと横を見れば、遠くの方に小さく見える親友の姿。
─ ポーン
エレベーターが着いて素早く乗り込んだあと、大きく息を吸ってゆっくりと吐いた。
「キス……されるかと思った」
今もあのシーンを思い返すと、恥ずかしさと変なドキドキで穴に潜りたくなる。親友相手に一瞬でもそう思ってしまったことがもうおかしいし、山本にも申し訳ない。
「でもあんな顔、初めて見た」
山本の怒った顔、それから顔を近づけてきた時の色っぽい表情……意外な一面に俺の心臓はこれでもかとバクバク鳴った。
「平常心、平常心…」
気を取り直して一ノ瀬の部屋のインターホンを押すと、しばらくしてドアがゆっくり開いた。
「作りに来たぞ」
「………ねぇ、なんでそんな顔真っ赤なわけ?」
「へっ!?」
思わず顔を触ると、バンっと音を立てて地面に落ちる食材たち。
指で触れた顔が熱くて、またあの光景を思い出してしまう。すると否応なしに俺の顔は沸騰するように熱くなって……これでは負の連鎖だ。
「何も……何も、ない……」
唇をゆっくり撫でて、何度も呟き言い聞かせた。
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