偽不良くんは諦めない

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「だぁれがヤクザだ」 ドスの聞いた声が廊下に響き、俺は山本の背後に目を向けた。 「そりゃあ、矢野せん……」 そこまで言ったところで山本が顔を青くしてゆっくりと俺の視線の先を辿るように振り返る。予想通りそこには矢野がいるわけで、山本は飛び跳ねて自分の教室へと入っていった。 「ったく…」 出席簿を持つのと反対の手で首の後ろをかきながら俺の横を通り過ぎようとして足を止める。まさか俺にもとばっちりが来るのかと内心ヒヤリとするが、それを表に出さないのが俺流。 「お前ももうチャイム鳴るから急げよ」 ヤクザにしては教師っぽい台詞を吐くなと思ったが、矢野は立派な教師だった。それも28歳独身の。こんな男子校で働いているなんて、ご愁傷様すぎる。矢野の華ある未来に心の中で合掌して、山本が駆け込んだクラスの隣にある教室へと入った。 中に入ると教室から一斉に視線を浴びた。一瞬静かになった後、矢野が後ろから入ってきて生徒がバタバタと自分の席へと戻っていく。 俺は黒板に張り出されていた席を見てかなり落ち込んだ。なぜなら席が窓から2番目の列にある1番前の席なのだ。肩を落として自分の先に座ろうとすると視界の端に昨日の奴が映って一瞬だけど視線を向けた。 「おい早く座れ」 矢野に顎で促され渋々その席に座るが、とても居心地が悪い。 なぜかって? それは隣に昨日トラブったあいつがいるからだ。俺は隣を見ないように頬杖をついて矢野の方を向き話を聞いているフリをする。 「とりあえずクラス替えもしたことだし自己紹介でもするか。」 そんな誰も得をしないようなことをやるなんて聞いていないぞ。ソワソワする気持ちを抑えながら、どういう順番でそれが回ってくるのか矢野の指示を待っていた。
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