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「じゃあ、そこのお前から。」
一瞬、矢野と目があってヒヤヒヤしたが俺の心配も虚しく、その視線はさらに奥の奴に向けられた。もしかして矢野は自分が名前を覚えるために自己紹介させてるんじゃなかろうか…。
「はい。」
落ち着いた声で答え、椅子から立ち上がると皆の視線が彼に向けられた。あとで自分がその立場になるかと思うと嫌で嫌で仕方がない。不良っぽい台詞を考えておく必要がある。
「一ノ瀬 志摩。よろしく。」
「っ!!」
─ ガタッ
その名前を聞き、驚愕して立ち上がってしまった。どこかで見覚えのある顔だとは思っていたが、名前を聞いたことによって最後のパズルのピースがカチリとはまった気がした。
「…どうしたお前。」
「………いや、なんでもねぇ。」
矢野が不思議そうに眉を寄せて、鋭い眼光で俺を見た。俺はそのまま着席して順番が来るのを待っていたが、一ノ瀬 志摩と自己紹介をした奴の顔を見ることはできなかった。
ただただ心臓がバクバクと激しく主張するように動いていて、それを鎮めるのに必死だった。
(何であの人が…ここにいるんだ。)
「次はお前だな。」
すぐに俺の番が回ってきた。出来るなら注目を浴びたくないのに、中々立てずにいた。サッサと自己紹介してしまった方が楽だが、こんな見た目で中身が小心者の俺にはそれができない。
もし自分だとバレてしまったら。寧ろもうバレてしまっているのか?いや、でも俺を知ってるいるような顔をしていなかった。なら名前は言わない方がいいんじゃないか?
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