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矢野が出ていったドアの方をただぼーっと見ていると、周りの奴らが帰りの仕度をし始めていて俺は顔を前に向けた。すると視界の端っこでこちらに視線を送る黒い頭を捉えた。
(気づいている…?いや、昔の俺と今の俺とでは全然違う。前は天使みたいに可愛いと言われたこともあったけど、今は悪魔のように恐ろしい奴と言われるくらいだ…うん、気づいてない気づいてない。)
「……ねぇ?」
(話しかけてきたあぁあぁあ!?!?え、やばくない?これやばいよね!?絶対気づいてるうう…あっ!立つな!近寄るな!!)
俺は気づいていないフリを決め込んで固まっていると、立ち上がった一ノ瀬がトンと肩を叩いてきた。それに俺は首をグギギギと横に向けて顔を見上げた。
「なんだよ」
心の内を隠すように鬱陶しいという気持ちを込め睨むと、それをなんとも思わないような無の顔で紙を差し出された。
「落ちてたよ。」
「…お、おう……」
その紙を受け取ると、一ノ瀬は鞄を持って俺の前を通る。意外と悪い奴じゃないのかもしれない。そう思った時、一ノ瀬がドアの手前で立ち止まって振り返った。
俺と目が合った一ノ瀬は薄っすらと微笑んで爆弾発言をした。
「……君、中学の時と随分変わったね」
それだけ言い残すと一ノ瀬はそのまま教室から出ていった。幸い一ノ瀬の発言を聞いていた奴はいなかったが、俺はそんなこと考えている余裕なんてなかった。鞄も持たずに俺は立ち上がって急いでその背中を追う。
(アイツが口を滑らせないように口封じしなきゃ…!)
「おい…っ!」
細身な後ろ姿を見つけて叫ぶようにそいつを呼び止める。すると奴は俺が追ってくるのを分かっていたかのような表情で振り向いた。
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