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間近で見た一ノ瀬の瞳はとても綺麗で吸い込まれそうになる。その瞳を縁取る睫毛も長く、中性的な顔立ちをしていた。
「僕に勝てたら秘密を守ってあげる。僕が勝ったら、僕の言うことなんでも聞く下僕になってね。」
「ああ…」
「どちらかが降参、或いは戦闘不能になったら相手の勝ち。」
「うだうだうっせぇ。早くやろうじゃねぇか」
シュルッとネクタイを解いて後ろに投げ捨てると、やっと一ノ瀬が体重を預けていた壁から離れてこちらに歩み寄る。
喧嘩は痛いから好きじゃないし、相手を傷つけるのも本心を言うと嫌だ。でもこれが高校生活のためだと思ったら死ぬ気でいくしかない。
「ふぅん。余裕だね」
一ノ瀬は目を細めて俺の様子を窺っている。俺はそんな奴の隙を狙って思いっきり拳を握って振りかぶった。
「その言葉、そっくりそんままお前に返してやるよ…っ!!!」
空気を切るように右手の拳を前に突き出すと、一ノ瀬は驚いた顔もせずひらりとそれを躱した。何かのマグレかとも思ってもう一度、奴に向かってパンチを繰り出すがそれも少し屈んで避けた。さらには俺の足に蹴りを入れて俺がバランスを崩す羽目になった。
「くっそ…」
打ち付けた尻をさすりながら立ち上がり、こんな奴に負けてたまるかと対抗心がメラメラ芽生え始めていた。
「へぇ…学校一強いと言われている君も、別にどうってことないんだね。」
「あ゛?まだ本気出してねぇんだよ」
単細胞である俺はそれが俺を煽る挑発だと分かっていても、ムカついて仕方がない。それは一ノ瀬の余裕な態度にしてもそうだ。
さっきよりもスピードをグンと上げて手加減なんて考えずに相手目掛けて拳を振るう。それを避けるのは予想済みで、すかさず左手の拳を鳩尾に入れようとするがそれを手で止められる。
「まだ、本気じゃないよね?」
ニタリと微笑む奴を睨み、そうだと返事をするように一ノ瀬に攻撃を仕掛けていく。
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