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「山本?お前どうした?さっきからなんか変だけど」
心配するなつの声は聞こえていたが、頭には入ってこなかった。俺はただひたすら地面を見て、自分の理性と戦っていた。
『 × × × × たい……──』
鍵をかけて、人目に触れることもなく、籠の中の鳥のように愛情を与える。そうしてしまえば、俺だけしか見れなくなって俺だけを求めて、俺だけのなつになる。
そう、『閉じ込め』てしまえば。
俺は壁に手をついていた片方の手でなつの後頭部に触れ、自分の方に引き寄せた。ゆっくりと角度を変えて、目の前の唇に吸い寄せられるように近づく。
唇を合わせた時どんな表情をするのか、どんな風に乱れてくれるのか、その先を知りたい。
(このまま奪ってしまおうか……)
理性とか世間の目とか、どうでもいい。ただ本能的に、自分の欲に従うだけだった。
「え……?」
ピタリ。唇まであと数センチというところで動きを止めて、脱力するようになつの肩に顔を埋めた。
閉じ込めてしまうのは簡単だ。
でもそうしてしまえば、なつは今までのようにコロコロ表情を変えたり、笑わうこともなくなってしまうことぐらい俺にだってわかる。
「ごめん…」
自分はいま何をしようとしていたんだろう。
ただわかることは目の前にある唇が魅力的ということと、なつをドロドロに甘やかしたい気持ちとグチャグチャに壊してしまいたい気持ちがせめぎ合っていることぐらいだ。
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