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望月 千鶴 side
あり得ない。あってはいけない。そうなってしまったら、自分ではなくなってしまう。
視線を遮断するために取った資料からチラリと高嶋くんを見ると、納得いかないような顔をしてクッキーをまた一つ頬張った。
お菓子作りは趣味で誰にも打ち明けたことはなかった。彼に教えたのもただの気まぐれで、別にあの笑顔を見られたのは俺が作ったクッキーがあったからだとか思ってない。
そう、あの笑顔。
いつも鋭い目付きをしていて、強面の表情をしている高嶋くんが目尻を和らげ、頬を緩ませこちらに微笑みを向けてきた。そのキラキラした表情と言ったら、無垢な子どものようで可愛いくて……。
見た瞬間、体の内側から得体の知れない何かがブワッと込み上げてきて、一気に顔全体が熱くなった。心臓がドクンドクンと激しく脈を打って、平常心を保つことができなくなる。
「それで本題って?」
そう言って視線をこちらに向けるものだから俺は咄嗟に紙で顔を隠した。目が合ってしまうとなぜかドキドキして、胸の奥で何かがキュッと掴まれるような感覚になる。この短時間で自分の体に何が起こってしまったのだろうか。
「え…えーと、ランキングが上位だったから君にはあの競技に参加してもらうんだけど、」
声が震えて言葉がうまく出てこない。
こんな事は初めてだ。
もしかしてこれが″恋″……───?
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