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「おい!手伝え!」
「は?」
観客席から一際目立つ極悪人顔を見つけ出した俺は、泥棒を逮捕する警察の如く腕を引っ張って無理やり立たせた。
「借り物競走か。お題なんだよ」
「いいから早く!」
乗り気じゃない…というかあからさまに嫌そうな顔をしながら、俺に引っ張られてちょっと小走りになる。あんなに体育祭に燃えていたのだから、こういう時役に立ってもらわないと困る。
そう。お気づきの人もいたかも知れないが、俺が″尊敬している人″として連れてきた人物は担任の矢野である。
別に1番尊敬しているわけではないけれど、ちょっと。ほんとにちょーっと。米粒くらいの尊敬はしているから、連れてきても問題はないだろう。そんなこと本人には絶対に聞かれたくはないけれど。
『おーっと!1番に戻ってきたのは高嶋選手ー!』
他の選手はまだ探していたり、その人物に交渉している最中だったらしく、1番にゴールすることができた。
しかし、ここで安心してはならない。なぜならこの競技は借り物競走。お題に沿ったものを持ってこないとやり直しの危険性がある。そこで時間切れになってしまえばビリになる可能性だってあるのだ。
『さぁ、ではお題を確認しますねぇ〜』
俺は矢野に見られないようにサッとお題の書いてある紙を渡した。すると受け取ったその生徒は目を丸くして、矢野と俺の顔を交互に見つめた。
『こ、れは〜意外ですねぇ!高嶋選手が引いたお題は″そ……─″……ヒィッ!?』
俺の殺気が伝わったのか、そのお題を口しようとしてゆっくり俺の顔を見上げた。その瞬間顔が青ざめた進行役はマイクを落とし、キィイイィインと嫌な音が鼓膜を揺らした。
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