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「別になんとも思ってねぇから!」
本当は人に向けてはいけない人差し指を矢野に向かってビシッとさして言って去ろうとすると、思った以上に注目を浴びていた。なぜならこの学園には大画面モニターがあり、そこに俺たちの顔が映し出されているからである。
「ふっ……お前可愛いところあるんだな。」
間抜け面をしている俺の瞳に映った矢野は愉快そうに目を細めて、俺の肩にポンと手を置いてきた。
「か、かっ…かかか可愛くなんかない!!」
俺は矢野の腕を掴んで引き剥がし、大声で言い返した。そしてその場から全力ダッシュで立ち去ったのであった。
「ウッ……最悪だ…!!」
「なにが最悪?」
校舎裏の茂みに隠れ、頭を抱えて蹲っていると、上から声がした。顔を上げるとバインダーを片手に俺を見下ろす一ノ瀬の姿があった。最悪だ…と内心思いながら、無言で地面に顔を向けた。
「ちょっと無視?」
「放っておいてくれ…今は感傷に浸りたい気分なんだ」
「ふぅん」
それから俺はしばらくその場で先程の事件を思い出しながら、何度も唸った。恥ずかしさと借り物競走なんて選んでしまった後悔で頭がいっぱいだ。
それから数分経った頃、こんなことをしていても仕方がないと思い体を起き上がらせようとした。
「…っ!?」
すると一ノ瀬が近くにしゃがみ込んで俺を見下ろしていた。もう何処かへ行ったものと思い込んでいたため、幽霊でも見たのかと座り込んだままズサズサと素早く後ろに下がった。
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