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「なにその反応」
「だってお前…!ずっとそこにいたのかよ」
「そうだけど」
さも当たり前かのように言ってくるが、こっちからしたらここにいる意味がわからない。俺が苦しむ姿を見たかったのか…?そうだとしたらかなり気色が悪い。
「何でだよ」
「何で?……どうでもいいよそんなこと」
俺の問いかけに一ノ瀬はしばらく首を傾げ考えたが、答えは出なかったらしい。何でずっとここにいたのか自分でもよくわかっていない様子だった。
「それより、夏輝。生徒会主催の競技に出るつもり?」
「当たり前だろ。お前に勝つためだ」
俺は一ノ瀬を睨みながら答えた。
なんだかんだであの競技が一番点数を稼ぐことができるのだ。しかも一ノ瀬が出るとなれば俺が出ないという選択肢はない。
「……出ないで」
「は?」
何を馬鹿なことを言っているんだと思いながら眉を寄せ、一ノ瀬を見た。すると一ノ瀬はいつになく真剣な表情で綺麗な瞳はゆらゆらと揺らいでいた。いつもクールな印象だったのが、なぜこんなことで熱くなるのか…一ノ瀬は本当にわけがわからない。
「出てほしくない」
俺の腕をそっと掴んだ一ノ瀬は俺の瞳を睨むようにまっすぐ見つめてきた。
「…意味わかんねぇよ、お前」
「……」
「俺はただお前から解放されたい。ただそれだけだ」
そう言い残した俺は一ノ瀬の手を振り解き立ち上がった。その時、一ノ瀬がどんな表情をしたのかはわからない。だけどいつもの一ノ瀬と少し違うような気がしたのは確かだ。
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