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「夏輝」
腰にくるような低い声はなんでも従ってしまいそうになるような力がある。これが俺だからいいけど、耐性のない生徒だったら救護室が血の池になると思う。
「ひぇ…っ?」
頸に回した手に新さんの吐息がかかって、何かが触れる。びっくりして変な声がでてしまったが、新さんに変だと思われていないだろうか。
「さっきのお題は″尊敬する人″か?」
「っ……はい…」
新さんが話すことで何が触れているのかわかってしまった。鼻先と唇だ。何がどうなってそれらが触れているかはわからないが、意識がそこに集中してしまってしょうがない。
「へぇ……?」
新さんの声が一段と低くなって、俺の背筋はヒヤッとする。これはもしかしなくても怒っているのでは…。
そういえばこの前も矢野に頼ってしまったときに話をされた覚えがある。しかもそのとき新さんのことを「尊敬している」発言をした記憶も今蘇った。
「夏輝の尊敬する人は矢野なのか」
「へっ、あ…ちが、…っ」
そうじゃない!と伝えたくてクルリと振り返ると、唇がくっつきそうな程に顔の距離が近くて声がうまくでなくなる。
「イケナイ子だな」
「うぁ……」
頰を大きな左手で包まれて、額がコツンと当たった。そして俺の瞳と目を合わせた新さんは悪戯っ子のようにニヤリと微笑み、俺の体温は急激に上昇する。
国宝級イケメンの顔面を間近で拝んでしまい、俺はへにょへにょと力なく座り込んでしまった。
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