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「ありがとう」
「保健委員としての仕事をしただけだ。後でちゃんと救護室行けよな」
応急処置が終わり、立って観客席に戻ろうとすると手首を掴まれ引き止められる。
「ねぇ、まだ時間ある?」
「…まぁ。」
「ここ、座って。」
そう言いながら望月は自分の隣をトントンと叩いて座るよう促した。俺は少し距離を開けて座り、望月のことをチラリと盗み見た。いつも緩く束ねられてハーフアップになっている髪も、今日は編み込みになっていて気合いが入っているようだった。
「ん?なぁに、惚れた?」
望月は柔らかそうな髪を揺らし、甘い笑みを向けてきた。
噂がどこまで事実なのかはわからないが、遊び人というのは強ち間違っていない気がする。ただ一ノ瀬が警戒するほど危険人物というわけでもなさそうだ。最近向けられる表情は柔らかくなった気がするし、まだ許せない事もあるが美味しいお菓子を作る人に悪人はいない。
「髪、器用だな」
「こういうの嫌いじゃないしね」
そう言って耳に髪をかける望月は睫毛を少し伏せた。
「あ、」
「?」
「今のお礼に飲み物買ってくるから少しまっ……っ、わっ!?」
「ちょっ…」
耳を赤くしながら立ち上がった望月は怪我をした足の存在を忘れていたのか、ベンチにまた逆戻りして尻餅をつきそうになった。俺は咄嗟にそれを受け止める。
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