偽不良くんと体育祭

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「一ノ瀬…?」 お風呂から上がってリビングに行くと一ノ瀬の姿がなくなっていた。ホッとするよりも心細い気持ちの方が強くて、意味もなく手を重ね自分の指に触れる。 「なに?」 声のする方に振り向くと、一ノ瀬は珍しくキッチンに立っていた。 「あ、えっと…上がった……」 「適当に座って」 1人でいると嫌でもさっきの光景を思い出してしまうからちゃんと髪も拭かずに出てきてしまった。ポタポタと垂れてくる雫が首を伝って冷たい。 あの場所から連れ出して、シャワーも貸してくれた一ノ瀬にお礼を言わなきゃいけないのになぜか言えないまま時間だけが過ぎていく。 「はい、これ飲んで」 ソファに座っていると一ノ瀬が前のテーブルにお茶が入ったコップを置いた。俺はそれを手にして揺れる水面を見下ろす。 「…何で、助けてくれたんだよ」 一ノ瀬の顔は見れなくて、小さな声で呟いた。少しの間でも無言になっているのが耐えられなくて、聞こえていなかったのかもしれないと思って一ノ瀬の顔を恐る恐る見てみる。 一ノ瀬は俺の顔を真剣な顔で見つめていた。その瞳は俺の全てを見抜かれてしまいそうで、俺はサッと睫毛を伏せて視線を逸らした。
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