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「別に僕は助けたとは思ってないけど」
「…そうだよな」
きっと俺のことを下僕だと思っているから手を貸してくれるだけで、きっと情なんて持ち合わせていないんだ。
「俺、またいじめられるのかな……」
こんな弱音を吐き出すつもりはなかったのに自分でも無意識のうちにポツリと呟いてしまった。中学時代、同じ学び舎で過ごし、いじめられていた過去を知っている一ノ瀬にだからできる話だ。
「みんなから無視されて、叩かれて、蹴られて、キモいって言われて笑われて……っ、嫌われるのかな」
一回話し始めたら止まらなくなって、次々と嫌なことが頭に浮かんでは不安を煽る。友達だと思っていた人たちが変わってしまうかもしれないと想像しただけで声が震える。
「一ノ瀬も…?」
縋るように一ノ瀬を見つめると、自分の視界がボヤけていることに気づく。涙越しの一ノ瀬はやっぱり俺を真っ直ぐ見つめていた。
一ノ瀬だけでも今のままいて欲しいと思ってしまった。いつものように毒舌や罵声を浴びせてもいい。俺のことを無視せず、下僕だという割には対等な立場を築いてくれたまま。ただそれだけでいい。
「はぁ……」
話を聞き終わると一ノ瀬が溜息をついて、俺はビクリと身体を震わせた。すると一ノ瀬は立ち上がって無言のままリビングを出て行ってしまった。
呆れられた。完全に見捨てられてしまった。
俯くとポタリと雫が落ちて服を濡らした。きっと髪をまだ乾かしていないからそのせいだ。だってこんなに我慢しているのだから涙なんて流すはずがない。
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