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「なつき、本当に行かないのか?」
「行かない!!」
最後の確認で俺の部屋にやってきた凪に対し、俺は布団の中に潜ったまま返事をする。
「わかった。じゃあいってくる」
「……いってらっしゃい」
布団からひょっこり顔を出して声をかけたが、パタンとしまった扉の音にかき消されてしまった。
「行けるわけないだろ…」
土日休みを終えた今日、俺は登校拒否で自宅に閉じこもっている。休みの間も友人たちが連絡をくれたり、部屋を訪ねてきたがどんな顔で合えばいいかわからず会えず終いだ。
理由は大きく分けて2つある。
1つ目は体育祭で不良らしくない醜態を全校生徒に晒してしまったことだ。生徒たちがあれを見てどう思ったのか、イジメに繋がってしまうのではないかという不安がある。何より友人たちの反応が怖くて勇気が出ないというのが本音だ。
2つ目は一ノ瀬とキ………………これは色々と察してほしい。
体育祭のあの日、一ノ瀬の部屋に連れて行かれてあの事件が起こった。あの後どうなったかと言えば、実はあんまりよく覚えていない。俺は思考停止したまま固まっていたのだ。
凪がタイミング良く迎えにきてくれたことだけは確かだ。一ノ瀬がなぜあんなことをしてきたのかは不明だが、会って聞く度胸もない。
まだあの時の感触が唇に残っていて、自分の指で唇に触れてみる。
「……ファーストキスだったのに。」
そう呟くとなんだか現実味が増して、顔が燃え上がったように熱くなる。
一ノ瀬はたかがキスと思っているかもしれないが、夢見がちな俺にとっては大切なもので。男相手、しかもあの一ノ瀬が相手というのはわかってても、あの瞬間を思い出すと心臓がバクバクしてしまう。
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