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天音くんはいつからこんな思いをしていたのだろう。と、殴られて朦朧とする中ずっと考えていた。
不思議なことに僕の中で天音くんは憎しみの対象にはならなかった。いじめの対象が僕へと移り、突然嫌いだと言われもう関わるなと見捨てられているのに、どうしてもあの時の表情が忘れられないでいるのだ。
「つかさー、ナツキちゃんはなんで犬飼の味方するわけ?お前らグル?」
「…そ、れは………」
あの場を目にしてから1週間ほどだろうか。湖上くんが学校では禁止になっているスマホをいじりながら聞いてきた。やっと4人が与える痛みから解放された僕は床に座り込み、返答に困った。友達だと思っていたのは僕だけなのかもしれない。
「犬飼って女の噂でスゲェし、俺と浅海なんて自分の女とられてプンプンだからさぁ」
湖上くんはそう言ってニコリと微笑んだが、瞳の奥は全然笑っていない。
天音くんが他人の恋人を奪うような人だとはどうしても思えない。それは僕が天音くんの本性を知らないだけかもしれないけど、僕の知る限り天音くんは女の子にとても紳士なイメージがある。
「まぁ、他人の物ってわかってて手ェ出してんだから妥当だよねぇ。それを守ろうとするナツキちゃんも悪いコ」
湖上くんが額に手を伸ばしてきて、僕の前髪をかきあげるようにして頭を掴んできた。細められた瞳と対峙しながら、僕は口を開いた。
「天音くんは絶対そんなこと……!!」
「ギャハハッ!!お前見捨てられてんのにまだアイツのこと庇うのかよ。相当馬鹿だな」
反論しようとすると、今度は小池くんが大きなお腹を抱えて笑った。
「ま、丁度アイツには飽きてた頃だしナツキちゃんが来てくれてラッキーだったけどね」
そう言って彼らはまたストレスを発散するが如く、僕に拳を向けた。
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