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僕はその噂がどうしても気になって、天音くんがトイレで1人きりになったところを見計らって声をかけた。
「あの……」
「……話しかけないでって言わなかったっけ?」
「ごめん、なさい。でもどうしても聞きたくて……」
話しかけるだけで心臓がバクバクで、氷のように冷たい表情を向けられるとなんだか泣きそうになって、自分の手をきゅっと握った。
「天音くんが浅海くんたちの恋人を奪ったって……嘘、だよね。天音くんがそんなことするはずないよね」
「…………アイツらが言ってんのは全部本当。あの女ちょっと優しくしただけでコロッと落ちてさ、」
「…っ、ごめん………それ以上、聞きたくない。」
不快に感じるような笑みを浮かべ話す天音くんの制服の裾をギュッと握り、話を途中で止めてしまった。自分で聞いたくせにと思われるかもしれないが、僕の憧れである天音くんが汚されてしまうような気がして体が勝手に動いていた。
「……話しかけてごめんね」
「……………なつき、」
「あっ、えっと…じゃあね!」
天音くんは何が言いかけていたが、僕はもうその冷たい目も言葉も向けられたくなくて、その場から逃げるように立ち去った。
それからの僕は希望を失い、何のために彼ら4人と対峙していけば良いのかわからなくなっていた。
しかし夏休みに入り、心にゆとりができてきた。休み中に呼び出されることはないから怪我もしない。だけどプールや海に行くのはきがひけて、父さんに誘われても適当な理由をつけて断った。
「にぃに、だいじょーぶ?」
「え?変な顔してたかな…心配してくれてありがとう。春歌は優しいな」
小学1年生の妹も幼いなりに心配してくれているようで、こんな頼りないお兄ちゃんで申し訳ない。
2学期が近づくにつれ、僕の体調は悪くなっていった。心と体が結びついているってのは強ち間違いではないらしい。
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