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─ ゴンッ
「「「ひっ……」」」
生徒たちが小さな悲鳴を上げる中、僕は後少しのところで間に合わず、一ノ瀬くんに心の中で謝った。一ノ瀬くんの頰に強烈な一撃が走って、その体はふらりと倒れてしまう。
「これで正当防衛に……は?」
僕は顔を上げて何か言っている一ノ瀬くんに背中を向けて大きく手を広げた。
「これ以上はやめて……!!するなら僕にすればいい!!!」
「あのさぁ、邪魔しないでくれる?」
僕が浅海くんたちに向かって叫ぶと、後ろに座っていた一ノ瀬くんが制服についた埃を手で払いながら立ち上がった。
「もう僕は…僕みたいに傷付く人を見たくない…っっ」
「………」
本当は怖い。彼らを目の前にするとまだ震えが止まらないし、逃げ出したいし、泣いてしまいそうだ。だけど今言ったことに嘘はない。
「チッッ、邪魔すんじゃねぇよ高嶋ァ!!」
襲いかかってくる拳が怖くてギュッと目を瞑ると、大きな音を立てながら教室のドアが開いた。
「何やってるんだ!!」
騒ぎがすごくなって誰かが呼んだのか、先生たちが教室へ駆けつけてきたのだ。その後、僕たちはすぐに生徒指導室へと連れられて、個々に一連の流れを話した。
だけどなぜ一ノ瀬くんと浅海くんが言い争っていたのか、天音くんが殴られていたのか知ることはできなかった。
──…翌日、僕のイジメはパタリとなくなった。それはもう怖すぎるくらいに。生徒たちは怯えるように僕を見たが、目を合わせてくれようとはしなかった。それは浅海くんたちも例外ではなく、いじめていた過去なんてなかったかのように僕に見向きもしなかった。
それから僕は誰とも話すことなく、接することなく、まるで空気のような存在になっていた。自分が生きているのか、本当にココにいるのかわからなくなった。
暴力をされるより、暴言を吐かれるより、無視されるというのがこんなにも辛いだなんて、思わなかった。
それから数週間後、僕は登校拒否となった。
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