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◇ ◇ ◇
「……嫌な夢」
目を開くとそこはよく知っている天井だった。いつの間に寝てしまっていたのか。目を擦りながら、ソファから起き上がる。
過去の記憶。中学校生活のことは思い出したくなくてずっと記憶に蓋を閉めていたのに、今になって思い出すなんて不幸の前触れなのかもしれない。
「……一ノ瀬だったな。あの時あいつらに色々言ってくれたのは。」
あの時の一ノ瀬は自分の言いたいことを全て代弁してくれた。なぜそんな大切なことを忘れてしまっていたのだろう。今思い返すと一ノ瀬はあの時から全然変わっていない。
─ ピンポーン
インターホンが鳴って、俺は咄嗟に時計を確認した。時刻は丁度お昼休みに入った時間でわざわざ寮まで戻ってくる人なんているのだろうか。
覗き穴を見るとそこには思ってもみない人物が立っていて、俺はすぐに扉を開けた。
─ ガチャ
「新さん…!!なんでここに?」
扉の前には制服姿の新さんが紙袋を片手に立っていた。新さんは俺の顔を見るなりクスリと艶やかな笑みを見せた。
「その顔、寝てただろう?」
「うっ……えと、はい。」
図星を突かれ苦笑いを浮かべると、新さんは俺の前に紙袋をズイッと寄越してきた。
「これは…?」
新さんからその紙袋を受け取り、中身を見てみると俺の好きなお菓子がたくさん入っていた。
「また1人で泣いていると思ってな」
新さんはそう言って俺の涙袋を親指で撫でてきて、思わず目を瞑ってしまった。俺はそっと目蓋を開いて新さんを見上げると、新さんは優しげな表情で俺を見下ろしていた。
「………だが、俺の杞憂だったか?」
新さんが少し首を傾げると髪がサラサラと流れる。
実際のところ心細くて誰かに頼りたくて甘えたい気持ちがあった俺は睫毛を伏せて首を小さく横に振った。
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