偽不良くんの過去

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「中……入ってください」 「ああ。」 俺は横にずれて新さんを部屋へ招き入れた。新さんを部屋にあげるのは初めてではないが、不思議と毎回ドキドキ緊張してしまう。 「お茶用意します」 「いい。」 キッチンに行こうとすると、新さんが俺の手首を掴んで引きリビングへと連れられた。お茶も用意しないまま2人用のソファに腰かけると、新さんに頭を引き寄せられた。俺の体は傾いていき、あろうことか新さんの膝にストンと落ちてしまった。 「ちょっ、新さん…これ…」 「お前のことだ。また変に考えて自分の殻に閉じこもっているんだろう」 膝枕されているというシチュエーションに耐えられなかった俺は起き上がろうとするが、新さんが頭を押さえてきて許してはくれなかった。 「何が不安だ?全部俺に吐き出せ」 「う……」 仕上げと言わんばかりに髪を優しく撫でられ、俺は懐柔された犬のようになって真情を吐露していく。 「体育祭であんな姿を見せてしまって……俺が偽不良だとバレていたらと思うと、友人たちが離れていかないか不安で……」 「お前の友人はそれを知って離れていくような奴らなのか?」 その言葉に俺は首を横に振った。みんなは友人を見捨てるような人ではないことは一緒に過ごしていればわかる。だけど、あの時の天音くんのことが未だに忘れられないのだ。もしかしたら、と思ってしまう。 「でもまたいじめられたらって思うと、俺怖くて……」 「そうなったとしても、お前はもう1人じゃないだろう?俺がいる。」 その言葉がどれほど心強かっただろうか。中学時代の時は頼れる相手も味方になってくれる人もいなくて、ただ逃げることしかできなかった。ありのままの自分を受け入れてくれて、弱音も嫌な顔せず聞いてくれる存在がいるだけでこんなにも心が救われる。 「それにイジメだなんて風紀委員長であるこの俺が許さない。」 「新さん……」 新さんは昔から何も変わっていない。正義感が強くて、こんな俺でも見捨てずに側で寄り添ってくれる。 あの時、新さんと出会えなければきっと高校生活を楽しく送ることは出来なかっただろう。
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