偽不良くんの過去

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◇ ◇ ◇ 登校拒否をし始めて数日が経った頃のこと。 僕は家事や勉強をしながら家で過ごしていた。やることが何もないと余計に考えてしまう癖があるからだ。教師からの連絡もくるけど、上っ面だけの言葉に僕の心が動かされることはなかった。 父さんはもちろん心配してくれた。むしろ僕が苦しんでいたことに気づけなくて悔やんでいるくらいだ。体の痣を見られた時は自分の方が痛いんじゃないかと思うほど泣いていたし、前より幾分か過保護になった気がする。気持ちが落ち着くまでは塾に行くなり、好きなことを見つけたりしていけば良いと、見守ってくれている。 「父さん、いってきます」 「いってらっしゃい。気をつけて」 父さんは在宅の仕事をしているため普段から家にいるのだが、家事があまり得意ではない。そのため俺が代わりにやることが多かった。 この時にはもう県外の高校に行きたいと考えていて、裕福でもないのに申し訳ないと思いつつも個別の塾に通わせてもらった。近くの塾にすると誰かに会ってしまいそうで怖いから何個か先の駅の塾へ通っている。 塾が終わると外はもう暗くなっていた。塾が終わり次第父さんに連絡をすると迎えに来てくれるのだが、今日は参考書が欲しくて先に本屋に向かっていた。 「なんで……」 瞳にある人物を捕らえた瞬間、途端に震え上がって全身がその存在を拒否した。心が、体が、全部覚えている。イジメが終わっても、僕のトラウマは消えず続いているのだ。 気づけば僕はその場から逃げ出していた。 「はぁ…っ、はぁ………」 薄暗い路地裏に入り、壁に手をついて息を整える。 もう学校へ行っても平気かもしれないと思っていたが、それは僕の思い違いだった。まだこんなにも恐怖で心が支配されている。 「あぁ…そっか。」 この時気づいてしまった。自分がこんなに弱いのが虐められてしまう原因だったのだと。そして、彼らのように力が強くなればもうあのようなことは起こらないのではないか、と。 「強く、ならなきゃ……」 僕は高校で平凡な生活を手に入れるべく、覚悟を決めた。自分のためにも、誰かのためにも、心と体を鍛える。もうなりふり構っていられない。
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