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それから同年代の柄が悪そうな人に声をかけて喧嘩を売って返り討ちにあったり、絡まれている人を助けてボコボコになったりした。こんな突飛な行動を起こしてしまうほどに強い覚悟だったのだ。
強くなるのならば柔道をやるなり、もっと王道な道があったはずだ。でも身近で強い人といえば浅海くんたちで、中学生の僕にはその方法しか思い浮かばなかった。
冬休みに入る頃、僕は少しだけ強くなった気がしていた。喧嘩に勝ったことはないけれど、パンチ1発くらいなら相手に喰らわせることができるようになったのだ。
「……っぐぉ」
いつものように塾が終わったあと、荷物をロッカーに預けていると奥の細道の方から呻き声が聞こえて僕はすぐに駆けつけた。すると、制服姿の青年に胸ぐら掴まれて青ざめているサラリーマンがいた。どういう状況かはわからないが、早く助けてあげないと可哀想だ。
「おい!!やめろ!」
「……誰だ。こいつの知り合いか?」
その青年が振り返った瞬間、あまりに美しすぎる顔立ちに僕は息を飲んだ。顔のパーツ一つひとつの形や位置も完璧すぎて、文句のつけどころがない。
「どうした?」
「弱いものイジメは良くない!お、俺が相手になってやる!!」
眉を寄せる表情さえ様になっている青年を目の前に慌てて拳を構えると、相手は呆れたように溜息をついた。
「何を勘違いしているのかは知らないが、この男は窃盗犯だ」
「え……っ」
衝撃的な事実を告げられサラリーマンの顔を見るとバツの悪そうな顔をしていて、その時やっと状況を理解した。青年は何も悪くはないのに変に正義感を振りかざしてしまって申し訳なく思った。
謝罪しようと唇を開きかけた時、青年の方が先に口を開いた。
「それに、俺はお前みたいに軟弱そうな奴に振るう拳は持ち合わせていない。」
自信をつけてきた時に容赦なくそんな言葉をかけられて、努力が全て水の泡になった気がした。何より、青年の言うことが正しくて何も言い返せない自分が惨めで悔しかった。
──…これが新さんとの最初の出会いだった。
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