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その手を取ってなんとか立ち上がることができたが、溢れてくる涙は止まることを知らなくて、俯きながら目を擦っていた。すると青年は近くにある適当なベンチに一緒に腰掛け、何も聞かず落ち着くまでただ隣にいてくれた。
やっと涙が引いてきたところで青年は「ちょっと待っていろ」と言い残して何処かへ行ってしまった。
「待たせたな」
戻ってきた青年はビニール袋を手に持っていた。何を買ってきたのだろうと興味があって、隣に座った青年の様子を見ているとビニールから消毒液や絆創膏を取り出した。
「とりあえず手当てだ」
「えっ…そんな、い、いいですっ」
「お節介とでも思って受け取っておけばいい。」
そう言って青年は僕の怪我を手当てしてくれた。しっかりしていそうなのに少し下手で、不器用な姿にちょっと笑えた。
見返りなんて気にせずに無償の優しさをくれるなんて、どこまでお人好しなのだろうと久しぶりにあったかい気持ちになった。
「ありがとうございます…」
「礼はいい。それよりもうああいう奴らとは関わるな」
「……はい。」
青年の言っていることが最もすぎて、何も言い返せない。言い方はキツイが身を案じてくれているのだ。
この人は力が強いだけじゃない。人に優しくできて、自分の意志をきちんと貫ける、心が強い人だ。
僕はこんな人になりたいと思った。この人に導いてもらえたなら、強くなれる気がしたのだ。自分に自信が持てる日がいつか来るかもしれない。
「あの…っ、」
「なんだ?」
僕は勇気を振り絞って青年を真っ直ぐ見つめた。
「僕を、あなたの弟子にしてくだひゃいっ…」
「…………」
「…………」
この出来事は新さんに一生笑われネタにされるのをこの時の僕はまだ知らない。
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