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◇ ◇ ◇
「俺、みんなに打ち明けようと思います。」
「そうか。」
俺は自分の本来の姿を友人たちに明かすことを決意した。友人を失ってしまうかもしれない恐怖はあれど、あの時のように弱くはないし相談に乗ってくれる人もいる。
新さんに背中を押されなければ、絶対にこんな考えに至らなかっただろう。
「新さんはいつも俺のヒーローですね」
俺は膝枕をされたまま新さんを見上げ微笑むと、新さんも口の端を少し上げて微笑み返してくれた。すると新さんの長い指が俺の額にゆっくり降りてきて、肌をツゥ…となぞり前髪を横に流していく。
「この笑顔が俺だけのものではなくなるのは惜しいな」
「もう。なに言ってるんですか。」
新さんがからかうようなことを言ってくるから俺は恥ずかしくなって、新さんとは反対の方に体ごと向けた。
「赤いな」
「ん…っ」
今度は耳の淵をなぞってくる優しくも憎らしいその指のせいで体がピクリと反応して、変な声を漏らしてしまった。
吐息と一緒に漏れた小さな声だからもしかしたらバレていないかもしれないと思ってチラリと新さんを見上げた。すると新さんは「ほう…」と片眉を上げ自分の顎を撫でて、新しい玩具を見つけた悪戯っ子のような黒い笑みを見せた。
「そうだ、新さん!体育祭で、ぁっ…ちょ……ひゃっ…」
「体育祭で、なんだ?」
話を切り替えようとした俺の声も虚しく、ソファの肘掛けに肘をつき口元を隠しながらもう片方の手で俺の耳に触れてくる。多分笑いでも堪えているのだろう。絶対そうだ。
耳の淵を円を描くようになぞったり、耳朶を摘んできたり、その触り方がまたなんともいやらしくて、背中がゾワゾワして堪らない。
「もっ、限界で、…ぁ、っく」
「ん?聞こえないな」
両手で口元を押さえているせいか新さんの耳には届かなかったらしい。それとも聞こえないフリをしている新さんのイジワルなのか。どちらにしてももう耐えられなくて顔を上げる。
「ぁっ、許してくださいっ…」
真っ赤な顔なのは自覚しているし、ボヤけた視界の中見上げる新さんはどんな表情なのかもよくわからなかった。
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