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素直に懇願したおかげか、思ったよりも早くパッと手を離されてホッと息を吐いた。目を擦って新さんに視線を移すと先ほどまで口元を隠していた手は、次は目元を覆っていた。
「…新さん?」
起き上がってソファに座り直し、新さんの顔を覗き込むがその表情はよくわからない。何か気分を害してしまうようなことをしてしまったか自分の行動を省みてみたが、特に思いつかなかった。強いて言えば男の変な声を聞かせてしまったことだが、それはどちらかと言うと新さんが悪いと思う。誰がどう見ても確信犯だった。
「………」
沈黙の中、俺の視線は自然と新さんの耳へと注がれる。俺のように赤くはなっていないけれど、ピアスの穴も開いていない綺麗な耳。
気づけば吸い寄せられるように耳に手を伸ばしていて、やり返しという気持ちも込めてふにっと耳朶に触れてみる。すると新さんは俺のように驚くわけでもなければ声漏らすこともなく顔を上げて視線が合ってしまう。
「仕返しですよっ…」
「もう満足か?」
新さんは自分の足に肘をつき頬杖をして首を傾げて意地悪そうな顔を見せる。俺はというと耳朶を摘んだまま、新さんの悪魔のような甘い笑みに固まってしまった。
「ずるいです……」
口を尖らせながら手を引っ込めようとするとその手首を引かれ、ポスンと厚い胸板にダイブしてしまった。
「ちょ、ちょちょ、あ、新さん…っ」
新さんの腕に包まれわたわたしていると、さらに強く抱きしめられ緊張で息を止めてしまった。すると新さんの唇が俺の耳元に近づいていき、吐息が触れる。
「真っ赤」
低い声でそう囁かれた瞬間、俺のキャパシティは限界を迎え、目をぐるぐるさせながら新さんの腕の中から脱出した。
「あ、あ…新さんのえっち!!!!」
頭が回らない中、耳を押さえながら立ち上がり言い放った言葉がこれだ。だって本当に仕草もちょっと掠れた声も全部がそうだったんだ。
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