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「いいか?絶対だ。約束だからな?」
「もうしつこい。わかったから」
部屋を出る前、凪の肩を掴んで揺らしながら何度もしつこく確認すると、整った顔面が歪んだ。
「ぜっったい俺から離れるなよ?」
「……だから何度も言うけど、みんな受け入れてくれるから。昨日だって夏輝が学校来ないせいで何人から声掛けられたと思ってんの?」
「うっ……ごめん。」
昨日、新さんのおかげで打ち明ける決心はできたものの、あの事件から会うのは初めてで緊張がMAX状態なのだ。
凪には最初に過去のことを告白した。学校での自分が本来の自分とは異なることは知られていたが、偽不良だと打ち明けるのは初めてでかなり勇気がいるものだった。
凪は黙って最後まで聞いてくれた。でも反応は意外と呆気なくて、「そう。それで?」って感じだった。
『過去の夏輝を知っても、偽不良を演じていたって聞いても俺と夏輝の関係が崩れることはない。それに話し方とか態度が違っても、今までの言葉も行動も夏輝自身のものだろ。違うのか?』
凪はそう言って偽不良の俺も、ありのままの俺のことも受け入れてくれた。俺はホッとして、震えながらその手を取って「ありがとう」と気持ちを伝えたのが昨日の出来事。
「ほら、早く行くぞ」
「……うん」
差し出された手をギュッと握ると、俺よりも体温の低い手が優しく握り返してきて安心する。すると凪は俺の頭に視線を移して口を開いた。
「その髪、似合ってる」
柄にもなく薄い笑みを浮かべ俺を褒める凪の姿に目を見開かせながら、手を引かれて一緒に部屋を出る。
実は今日から不良のフリをする必要がなくなったため、髪のセットはしていない。前髪は下ろしているし、いつもたくさん付けているピアスも一つだけにした。
それを褒められてむず痒い気持ちになりながらも「ありがと…」と小さな声で呟いた。
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