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人が真剣に話してるのにこんな意地悪を仕掛けてくるなんて正直拍子抜けした。見捨てられると思っていた俺が馬鹿だったのかもしれない。
「……そうだよ。大切だ!悪いか」
半ば投げやりになりながら、もうどうにでもなれ!と恥を押し殺して言い放った。すると先程まで意地悪気に微笑んでいた奏太は固まって、みるみるうちに顔が真っ赤に染まっていく。こんな奏太を見たのは初めてで、俺もパチクリと瞬きを数回繰り返した。
「なんだよ、それ………」
奏太は顔を両手で覆い、力でも抜けたように背中を曲げて呟いた。そんな風に照れられたら俺の方まで恥ずかしさが伝染してきて、自分の発言がいかに醜態をさらしていたのかを思い知らされる。
「なに照れてるんだよ…こっちまで恥ずかしくなるからやめろよ………」
「嬉しいんだよ。悪いか」
なんだかドギマギしてしまって掴んでいた袖を離して、ゆっくりと正面を向く。すると奏太が手のひらの隙間から赤く染め上がった顔のまま見上げてくるものだから、無性にどこか穴の中に入りたくなった。
付き合いたてのカップルみたいな甘い雰囲気が流れているのはどうしてだろう。この心が擽ったい感じはどうやったら消えるのだろう。
「とにかくっ…俺が言いたいのは、その…」
「…………先に言っとくけど、」
たった今、お互いが大切に思っているということを確認したばかりというのに、やっぱり真実を告げることがなかなかできない。そんな俺を見かねて、奏太は顔を上げ口を開いた。
「俺はなに聞いてもなつから離れるつもりはないし、なつが俺を避けても今日みたいに部屋に閉じ込めてでも離さない。」
「そうた……」
「だからお前も俺から離れようとするな」
その言葉は俺を安心させるには充分すぎる材料で、俺はこんなにも素敵な友達を持てたことを誇りに思った。
そんなことを言われたら、俺はもう全部話すしかないじゃないか。
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