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「じゃ、そろそろ遅刻するし行くか」
「な…っ、な、なっ………こんなんで行けるかバカ!!!!」
奏太は頭が真っ白になっている俺に声を掛け、何事もなかったかのように鞄を肩にかけた。あまりにも自然すぎる流れに「もしかすると今のは夢だったのでは…?」と錯覚させられたが、プニッとしたあの感触が今もまだおでこに残っている。
「精々俺のことで頭いっぱいになれよ、なーつ。」
部屋のドアを開いて振り返ると、悪戯少年っぽい笑みを浮かべてそう言った。この爽やかな男に翻弄された自分が情けない。こんなに恥ずかしがっているのはきっと俺の方だけなのだろう。
「言われなくても今それしか考えられないから!!!」
「そっか」
思いのままを口にすると、奏太は少し嬉しそうに笑った。その笑みが母性を擽るからか、それとも単に俺がその笑顔に弱いのかはわからないが、本当はもっと言ってやりたかったのに言葉をつまらせてしまった。
「俺だけ違うクラスで寂しいんだよ。それぐらい許せって」
「……………わかったよ」
急にしおらしくなってそんなことを言うから、つい許してしまった。確かに最近は凪たちといることが多くなってしまったから、1年の時に比べて寂しいという気持ちもわからなくはない。
「……ちょろ」
「おい!聞こえてるぞ」
「今日からなつはちょろなつだな」
ボソッと呟いた言葉を聞き逃さなかった俺は偽不良お得意の睨みをきかせて奏太を見た。しかし奏太はそんなもの痛くも痒くもない様子で部屋を出ていく。
「早く行くぞ、ちょろなつ」
「〜〜っ、いつか絶対仕返ししてやる!」
「まじ?楽しみに待ってる」
「何喜んでるんだよ!ばか」
何はともあれ親友に秘密を明かし、ありのままの自分を受け入れてもらえただけでかなり心が楽になった。これからも友情を深めていきたいと心から思う。
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