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「ありがとう、宗方」
嬉しくて照れくさくて、お礼を言うと自然と顔が綻んだ。俺につられて宗方も微笑んで、その様子を見ていた凪は安堵の溜息をついて「ほらね」と言わんばかりの表情で俺に視線を送った。
授業中は寝たフリをしたりサボったりしなくて良いからすごく楽だった。ただ、1番前の席で俺が真面目に受けていると逆に怖いのか教師のチョークを持つ手が震えていた。
それよりも気になったのは周りからの視線だった。横を向けば目が合って逸らされる。そんなの偽不良を演じていた頃も同じだったはずなのに、相手の反応がまるで違ってこっちが戸惑う。そりゃあ外見が変わったっていう自覚はあるけれど、髪のセットや睨むのをやめただけでこんなに変わるものなのだろうか。
(………むず痒い…)
◇ ◇ ◇
午前の授業を乗り切り、昼休みの時間になった。山本もクラスにやってきて、一緒に食堂へ行こうと話をしていればスパアァァンッとドアが勢いよく開いてクラス全員の注目を集めた。
そこには槙田が俯きながら立っていて、背後に黒いオーラを纏っていた。すると槙田はズカズカと教室に入ってくると、一ノ瀬なんかそっちのけで俺の元へやってきた。
「はぁ゛っ!?」
俺の顔を見るなり可愛い顔にたくさん皺を寄せて、顔に似合わない野太い声を上げた。俺はビックリして背中を反らせたが、槙田はズイッと顔を近づけて詰め寄ってきた。
「アンタ誰!」
「いや…高嶋だけど………」
「そんなことわかってるし!!!」
槙田は理不尽にも俺に怒鳴ってきて、あろうことか俺の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「こんなの聞いてないし!」
そう言いながら槙田は目を潤ませて俺を睨みつけた。
わかっていた。いくら俺が周りの人に恵まれているからって、すべてが許されるわけでは無いということを。なのにその瞳に浮かんだ涙をみると胸が痛くて、言葉にならない。
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