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「もうこういうのしなくて良いよ」
「え?」
紙袋を受け取った一ノ瀬は俺と目を合わせずにそう告げてきた。突然距離を置かれたような気がして俺は戸惑いが隠せなかった。あんなに嫌いだった一ノ瀬の言葉にショックを受けているなんて、自分が1番びっくりしている。
なんだかんだ言いつつも全部残さず食べてくれたし、やっと一ノ瀬が言う「まあまあ」が「美味しい」という意味だと気付いたばかりだというのに。
「不良じゃないってこともバレたし、下僕も解消。だから別に無理に…」
「うるさい!」
一ノ瀬の言いたいことがわかった気がして、俺は話の途中で一ノ瀬の口を両手で塞いだ。
勝手に人のこと下僕扱いして、勝手に俺のこと助けてきて、勝手に心の中に踏み込んできたくせに、こっちが心開いた途端に拒絶するなんて絶対許さない。
「一ノ瀬が俺のことどう思ってるか知らないけど、俺は今も昔も一ノ瀬にたくさん助けられたからっ……」
俺は一ノ瀬の顔からゆっくり手を離し、感情的になり熱くなった瞳をユラユラ揺らしながら一ノ瀬を真っ直ぐ見つめた。
「お前、嫌な奴だけど…倒れたりしたら心配なんだよ!」
本心だった。
こんなこと言うつもりなかったし恥ずかしくて言えると思ってなかったけど、気づいたら口から漏れてしまっていて、もう引き返せなかった。
「……だからそんなこと言うなよ」
「なにそれ…ただのお人好しじゃん」
俺が縋るように見つめて呟くと、一ノ瀬は顔を背けた。その行動は一見すると悪態をついているようにも感じられるが、きっと照れ隠しのようなものだろう。横顔から見える耳がほんのり赤くなっているのが何よりの証拠だ。
「お前だって、そうじゃん。俺を助ける理由なんてないだろ。」
「本当にそう思ってるの?」
それは理由があると言っているようなもので。だけど俺のちっぽけな脳みそでは到底理解することなどできなかった。
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