5509人が本棚に入れています
本棚に追加
矢野 千尋side
笹部先生に呼ばれた時、また何かあったのだろうとすぐに察し、チラついたのはあの顔だった。最近不良じゃないと発覚したばかりだし、親衛隊も多くなり条件的にはピッタリだ。
話を聞いてみれば宗方が襲われたところをギリギリ高嶋に助けられ無事で、むしろ負傷者は襲った側の2人だという。双方の話を聞き、食い違いがないか、高嶋がどんな風に相手を殴りどんな言葉を投げ掛けたのかを知った。
俺の主観だが、高嶋は平和主義で争い事はあまり好まないタイプだ。そんな奴が相手に反撃する間を与えず殴り続け、尚且つあんな言葉を言うなんてにわかに信じがたい。
「お前も本当は怖かったんだろ?」
「怖くなんかない。俺なんか宗方に比べたら…」
「比べんじゃなくて俺はお前に言ってんだよ。」
隣に座る高嶋の顔を見て言うと、首を小さく横に振りつづける。ここで弱音を吐くのは宗方に申し訳ないとでも思っているのだろうか。
「馬鹿だなお前は。」
「なっ、誰がっ…」
「……よく頑張ったな」
「……っ、……」
ポンと頭に手のひらを置くと、緊張が溶けたかのように肩が小さく震え、雫がキラリと光って高嶋の手の甲に落ちた。
友人のために震える自分の体に鞭打って助けて、自分の心を犠牲にした姿はとても強く、とても脆くも見えた。だが、自分のためだけじゃないその涙がとても綺麗だと思った。
教師という職業をしていて、生徒が泣く姿なんて山程見てきている筈なのに、何で高嶋が泣くと″ 力になってあげたい ″ ″守ってあげたい″だなんて柄にもないことを考えてしまうのだろうか。
泣いてる姿を見てこんなにも心が揺さぶられ、どうして抱き締めたいだなんて思ってしまうんだろうか──……。
「……ずびっ……ヤクザみたいな顔してるくせに」
「それは関係ねぇだろ。生徒が悩んでる時は力貸すのが教師だ」
このまま体を引き寄せ、抱き締めることができたらどれほど楽だっただろうか。自分に言い聞かせるように呟き、高嶋の髪をわしゃわしゃとかき混ぜるように撫でた。
矢野 千尋side end…
最初のコメントを投稿しよう!