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「夏輝さんって呼んでもいいですか」
「え?」
高嶋さんは俺の唐突な申し出に一瞬時が止まったかのように固まった。
「…ダメ、ですか?」
「全然ダメじゃないから!ただちょっと驚いて…」
以前話してくれた犬のポチに俺を重ねているのか、俺の表情を見るなり高嶋さんは慌てるように弁解し、快く受け入れてくれた。
高嶋さんの役に立てればと親衛隊を結成し、隊長になって高嶋さんを見守る。それが本来目指していたもので、見返りなんて求めていなかった。それなのに今、こうして特別と思える何かが欲しくなってしまうだなんて。
「なつき…さん」
もちろん尊敬しているし、性的な目で見たことは一度たりともない。ただ、自分のことを見て欲しくて、頑張ったことを褒めて欲しくて、笑った顔をもっともっと見せて欲しい。
考えれば考えるほど、隣で横顔を見つめるほど欲が溢れ出してしまう。この気持ちの正体はなんなのか、俺にはさっぱり理解ができない。確かめたいのにその術さえ知らなくて、もどかしくて仕方がない。
「うん。……朝陽」
「………っ!!!!?」
不意打ちの名前呼びに驚きと嬉しさで、今まで考えていたことが全て吹っ飛んでしまった。
「うおっ、そんなにビックリするなよ。俺だけ下の名前で呼ばれるなんてズルイだろー」
「もっと、呼んでください」
もっともっと、と瞳をキラキラさせながらせがむと、俺を見る目がまた少し柔らかくなる。
「ん?…お〜よしよし、朝陽〜」
両手でわしゃわしゃと髪を乱すように撫でてくる。でも不思議とそれが嫌じゃなくて、手の温もりも優しい手つきにも心地良さを感じた。
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