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「夏休みだからってあんま気ィ抜かないようにな。宿題もちゃんとやれ。」
帰りのホームルーム、矢野が長袖のシャツを腕まくりして夏休みの注意事項やらを話している中、クラスメイトたちはソワソワとしながらその時を今か今かと待っていた。
「あと、なんかあったら言え。休み以外だったら相談乗ってやる。……以上。」
「「「っっシャァアアッッッッ!!!」」」
矢野の話が終わった瞬間、クラスメイトたちは席を立ち、ガッツポーズをしながら雄叫びを上げた。そんなみんなの姿を矢野は呆れながらも少し笑って見ていて、教師の顔をしていた。
ふと隣を見れば、一ノ瀬とバッチリ目が合ってドキッとする。いつから俺のことを見ていたのか、一ノ瀬は頬杖をついたまま不敵な笑みを俺に向けた。
「なんだよ…」
「別に。夏輝は夏休み嬉しくないみたいだね」
「…そりゃ家族に会えるから嬉しいけど、友達に会えないのはちょっと、なんていうか……」
「寂しい?」
恥ずかしくて言えなかったことを一ノ瀬は俺の反応を楽しむように問いかけてきた。
「僕も実家に帰るから夏輝にはしばらく会えないかもね」
「ふーん。嫌な奴がいなくて清々する」
「へぇ?随分と生意気な口を叩くね?」
今はこうして一ノ瀬の言葉に嫌味を返すことができているが、キスをされてしばらくはそれどころじゃなかった。今でも顔を見て1番に思い出すのはあの光景だ。
俺はまだあの時のキスを許したわけじゃないし、ファーストキスを奪われたことをずっと根に持っている。理由を知りたいが、それを聞いてどうこうしたいわけでもなくて聞き出せずにいる。
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