夏輝くんの夏休み

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「僕がいなくて寂しいかと思った」 どこからそんな自信が湧くんだと思うほど、ニンマリと口角を上げ悪魔のように微笑んだ。 (ああ、コイツは顔が良い。許せない。) 「……というか、俺も実家帰るし」 「へぇ、そうなんだ」 帰りの支度をしながら素っ気なく答えると、一ノ瀬も興味なさそうに返事をした。 だけど、いつからだったろうか。一ノ瀬は俺の前で色んな表情を見せるようになった。不機嫌なのは通常運転だが、時折爆笑とはいかずとも笑顔を見せたり機嫌が良いときがある。 前までだったら不快極まりなかったと思うが、不思議とそれが嫌じゃない。あんなに嫌な奴だと思ってたのに、いつの間に絆されてしまったのだろうか。 「あ、矢野…」 矢野が書類や出席簿をまとめて教室を出て行く後ろ姿を見て俺は立ち上がった。 「矢野、ちょっと話があるんだけど」 廊下を歩く背中を追いかけて声をかけると、矢野はピタリと止まってゆっくりとぎこちなく振り向いた。 自分のクラスの担任で、しかも俺は1番前の席に座っているはずなのにこうして矢野と話すのが久しぶりな気がする。むしろ今までの関わりが多かっただけなのだろうか。 「どうした?」 「夏休みは帰省しようと思ってるから、外出届の紙が欲しいんだけど」 「…ああ、それなら寮長にもらえ。アイツが管理してるから」 あの人もちゃんと寮長としての仕事をしているのか、とちょっと感心したところで違和感を感じる。 素っ気ない?余所余所しい?いや、普段からこんな感じだったのだろうか?矢野の雰囲気が全く違うことに今更気づいた。
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