夏輝くんの夏休み

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教室に戻ると一ノ瀬の姿はなくなっていて、代わりにあったものといえば生暖かい視線だ。その視線の主である宗方の瞳はいつも俺の思考全てを見透かしているような気がする。時にはおかしな方向に妄想を繰り広げられているのではないかと言うくらいにニヤニヤしていて恐ろしい。 「おかえり!グッジョブだね」 何が、とは聞かない。聞いてしまったら何か大事なものを失ってしまう気がする。 「あーあ、また一ノ瀬先輩いないじゃん」 そう言いながら俺の背後に現れたのは、膨れっ面した槙田だった。上級生の教室に平気な顔して入ってくるのもどうかと思うが、それも慣れてしまえば誰も突っ込む者などいない。 「生徒会室にいるんじゃないか?」 「あー…うん。別にいいや」 この会話も今月に入って何回目だろう。槙田も少しは学習して先に生徒会室に先回りすれば良いのに、決まって教室にやってくる。これでは俺たちと一緒に帰るためだけにここに来ているみたいだ。 「おっ、と…」 凪が俺の服の袖をクイっと引っ張ってドアの方へ進んでいく。これは凪の″帰ろう″という合図だ。俺は手を伸ばして鞄を掴み、凪の隣に並んで歩いた。するとズシッと反対側から重みが加わって、「またか。」と思いながら目をやれば、槙田が俺の腕に抱きついて体重をかけてきていた。 「今日も疲れたからイイよね?」 槙田はきゅるるんっと効果音がつきそうなほど可愛い上目遣いで俺に聞いてきて、それに弱い俺は仕方なく頷いた。 「夏輝、今日のご飯なに」 「昨日の残りのカレーでカレーうどんにしようかな」 「いいな〜それ僕も食べたい」 「じゃあ部屋くるか?」 「やった!センパイの料理美味しいから嬉しいな。行っても大丈夫ですか?凪先輩」 「……勝手にすれば」 「じゃあ遠慮なく」 楽しい雰囲気の筈なのだが、凪も槙田もなぜか威圧的なオーラを身に纏っていて、間に挟まれている俺はいつもたじたじだ。槙田を家に招くと凪がちょっと機嫌悪くなるし、かと言って槙田を家に呼ばないと拗ねるし、俺はどうしたらいいのか。 振り向いて助けを求めてみても、スマホのカメラを向けられ微笑まれるだけだ。
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