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「おいおい嘘だろ……」
翌日、ウキウキ気分で荷物を持って駅まで送迎してくれるバスに乗り込むと、奴が乗っていた。しかもそれだけではなく、乗る電車も時刻も一緒で、中学が同じだから仕方のないことだが、歩く方向も同じなのだ。こんな偶然はなかなかないと思う。
一ノ瀬は全く気にする様子はなかったが、俺はバスでも電車でも変に意識してしまって気まずかった。だからこの際話しかけてしまおうと一ノ瀬の隣を歩く。
「一ノ瀬の家ってデカいよな」
「まぁ、夏輝の家よりは」
近所なわけではないのだが、同じ中学の人ならほとんどが一ノ瀬の家を知っている。和風な家で、塀がどこまでも続いているような立派なお屋敷だ。その中には空手の道場もあるらしいから一度でいいから覗いてみたい。
「何日くらい滞在すんの?」
「1週間くらい。」
「じゃあ夏祭りは行くのか?」
「そんなのもあったね。神社のやつでしょ?夏輝は行くの?」
「まあ妹の春歌が行きたいっていうなら行くかな」
「ほんとシスコン」
「春歌の可愛さ知ったらお前だってそうなるぞ」
そんな話をしながら実家に向かって歩いていた時のことだった。
「夏輝……?」
向かいから歩いてきていたであろう人が俺の名を呼んで立ち止まったのだ。俺と一ノ瀬は視線を向け歩みを止める。おしゃれな格好をしていて女の子にモテそうな甘いマスクをした男の人で、驚いた表情で俺を見ていた。
俺は中学時代の友達はほとんどいないから、声を掛けられるなんておかしい。そんなことを思いながら男の顔を見つめていたら友人だった人の顔が頭にチラついて、俺の心臓はドクドクと大きく脈を打ち始めた。
「もしかして…天音、くん………?」
「あー…、うん。久しぶり……」
久しぶりに会った天音くんは少しだけ気まずそうに、格好いい髪型にセットされた頭をかいた。
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