夏輝くんの夏休み

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あの日を境に俺は天音くんを避けるようになって、学校にもほとんど顔を出さなくなったから面と向かって話すのは本当に久しい。 優等生で好青年タイプだった天音くんの雰囲気はガラリと変わっていて、学校では少しやんちゃしていそうな印象だ。サラサラだった黒髪はワックスでセットされており、イマドキの男子高校生って感じで中学時代よりもモテそうだ。 「あ……えっと…」 笑顔で「久しぶり」って言いたいのに、あの頃を思い出してしまって上手く表情が作ることができない。それどころか手がカタカタ震え始め、体が冷えていく感覚がする。まるで天音くんに対して拒否反応を起こしているかのようだった。 「俺、話したいことが…」 天音くんはきっと歩み寄ろうとしてくれているのだろう。それをわかっていても手の震えは止まらず、心臓の鼓動もどんどん加速する。 友人たちに受け入れてもらえたことで、あのトラウマも克服できたと思っていた。だけど違った。俺はまだあの時のままだ。 「…っ!?」 足を一歩退けた瞬間、震えた手は他の誰かの温もりに包まれた。 「今は話せる状態じゃないから。また今度にしてくれる?」 「そう、だよね……うん。引き留めてごめん」 横を向くと一ノ瀬が代わりに天音くんと話してくれていて、俺は手の温もりを感じながら徐々に落ち着きを取り戻していった。 「…行くよ」 そっと掛けられた言葉に小さく頷くと、一ノ瀬は優しく手を引いて歩いてくれた。 「一ノ瀬、手………」 俺がそう言っても一ノ瀬は少し強く手を握るだけで何も答えてはくれなかった。 普段の俺なら絶対拒否していると思うが、今は恥ずかしいとかそんなことよりもただ安心材料が欲しかった。今はそれがたまたま一ノ瀬の手だった。ただそれだけだ。
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