夏輝くんの夏休み

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「ねぇ、お兄ちゃん。今度のおまつり、このお兄さんもいっしょがいい!」 「いやだ…」 「だめなの…?」 妹を目の前にして兄である俺の拒否権なんかはなくて、ウルウルとした瞳で見つめられてしまえば一発KOだ。 「うっ…………一ノ瀬…」 「僕は良いけど?」 どうか嫌だと言ってくれと願いながら一ノ瀬を見れば、面白そうに微笑みながら答えた。さっきは祭りになんて興味なさそうにしてたのにどうしてだ。 「………わかった、春歌。いいよ」 「やったあ!」 さっきまで嫌で嫌で仕方なかったのに、この笑顔を見てしまえばそんなの何処かへ吹き飛んでしまう。それくらいに妹の春歌は俺の癒しなのだ。 「お前にも俺の妹の可愛さがわかったか」 「まぁ、夏輝の妹だったら悪くないかもね」 「どういう意味だこら」 春歌を腕から下ろして、ちょっと先をとことこ歩く後ろ姿を見ながら言うと一ノ瀬は片眉を上げて答えた。此奴はいつも上から目線だから本当に気にくわない。春歌が一目惚れするのが奏太とかだったらまだ納得がいくし、歓迎するのに。 「そういえば、あの犬飼 天音のことだけど。」 俺が目を見開いて隣を見ると、一ノ瀬は真っ直ぐ春歌の後ろ姿をただ見つめて歩いていた。神妙な面持ちの横顔を見て、俺も視線を戻し耳だけ傾けることにした。 「……まだあの頃のことが忘れられないだろうけど、これだけは伝えておく。」 聞くのが怖い。だけどそれ以上にあの日の真実を知りたかった。俺が誤解していることがあったなら、次はちゃんと天音くんと話せる気がする。 あの日々を笑って話せる日が来るとは思わないけど、誰かを憎むままじゃなくて許せたならきっと俺の未来は今よりもっと明るくなる筈だ。 「実はあの日─…」 そうして一ノ瀬の口から告げられる真実。初めて聞くエピソードと記憶の中のわだかまりが、パズルのピースが組み合わさるようにカチリとはまっていく。 何も知らないまま、知ろうともしないまま過ぎ去っていった中学時代を思いながら後悔の念に駆られていった。 話が終わった時、俺は瞳から涙が勝手に溢れてきてしまって、歩くこともままならず腕で目蓋を覆った。そんな俺のことを一ノ瀬は慰めるわけでもなく一瞥した後、春歌の隣に行って手を繋ぎ楽しそうに会話を繰り広げていた。今の俺にはそれが一番助かった。
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