夏輝くんの夏休み

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服を取り払った俺の体をまじまじ見つめて、「よし。」とだけ言うと父さんは体に湯を掛けてから湯船に浸かった。 「学校はどう?」 「ちゃんと真面目に授業受けてるよ。今回も成績良かったし…」 「そっか。」 浴槽の縁に顎を乗せて俺に話しかけてくる姿は自分の父親ながらに可愛らしい。俺は髪をゴシゴシ洗いながら、湯気のせいで父さんの眼鏡が曇っていくのを見て肩を震わせ小さく笑った。 「もし寂しくなったり辛くなったらこっちの高校通っても良いからね。」 「寂しくないよ。」 突然しんみりしたことを言い出す父さんにキッパリ言うと、父さんは目をパチクリと瞬きさせて俺を見てきた。この言い方だと何か語弊があると思って慌てて弁解する。 「父さんと春歌に会えないのはそりゃ寂しいけど、俺…友達がたくさん出来たんだ。」 「友達……」 「本当に面白い人ばっかでさ、凪は無口だけど人を見る目があって、意外とツッコミが鋭いんだ。奏太はスポーツ万能で爽やかでさ、趣味が合うんだ。あと宗方ってやつはさ……─」 時々思い出し笑いをしながら俺の話は止まらなかった。父さんはそれを途中で遮ることなく、ただ相槌を打ち微笑んで聞いてくれた。 「だから父さん、俺は寂しくないよ。今すごく学校が楽しいんだ」 「……楽しい、か。」 俺が心からの言葉を伝えると父さんは俯き、少し震えた声でポツリと呟いた。すると父さんは何を思ったのか、眼鏡を外しお湯を掬ってバシャバシャと何回も顔に掛けた。 「いやぁ、長風呂すると汗かいちゃってさ」 「それならこっちで汗流してよ…」 「ハハハッ、本当にそうだね。ごめんごめん」 俺が呆れて言っているのに父さんは何だか凄く嬉しそうだった。父さんの笑顔も不思議なもので、見ていると呆れているのも馬鹿らしくなってこっちまで笑ってしまうような魔法が掛かっているのだ。
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