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◇ ◇ ◇
『グスッ……一ノ瀬は何でそんな細かいところまで知ってるんだ…?』
『……さぁ、どうしてだろうね。それは犬飼本人から直接聞いてみれば良いんじゃない?』
一ノ瀬から話を聞く前は天音くんが少し怖かったけれど、今は全然怖くない。寧ろ早く話してありがとうとお礼を伝えて、仲直りをしたいと思っている。
─……目蓋が重くなってきて微睡の中、中学生時代の俺と天音くんが笑い合っている姿が脳裏に焼き付いていた。
眩しい光がカーテンの隙間から差し込んできて目をギュッと瞑ると、鼻を掠める焦げ臭い匂い。眉間に皺を寄せると、ユサユサと誰かが俺の体を揺さぶってくる。
「お兄ちゃん…お兄ちゃん!またパパが……」
「ん……春歌おはよ…………ぱぱ…?」
視界がボヤけていたのが春歌の顔を見たことによってパッと目が覚めていく。そこでやっとこの焦げ臭い原因が判明して、俺は布団から飛び出して真っ先にキッチンへと向かった。
─ バタバタバタッ
「父さん!!」
「あ!夏輝、おはよう」
「おはよう……じゃなくって、どうしたのそれ!」
「あはは…焦げちゃった」
プシュゥ〜と音を立て真っ黒焦げになった目玉焼きを乗せたフライパンとフライ返しを持ちながら、苦笑いをする父さんは常習犯だ。
「いやぁ、夏輝がいるから張り切って朝ご飯を作ろうと思ったんだけど…おかしいなぁ。ちょっとは料理が上手くなった気がしてたんだけど」
「全く……ここは俺がやるから父さんは他のことお願い。」
「はーい」
俺がため息を吐いて呆れながら言うと、こんなやり取りでさえ嬉しそうにニコニコしながら父さんはキッチンを出て行く。俺はルンルンと嬉しそうな背中を見て頰を緩めた。
「そろそろ夏祭りの準備をしようか」
「うん!はるか、ピンクのゆかた着る!」
少し遅めの朝食を終えた俺たちは、近くの神社のお祭りに行く準備を始める。いつも3人揃って行くのが恒例だが、今回はもれなくオマケで一ノ瀬がついてくるのだ。春歌の頼みとあれば仕方がない。
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