夏輝くんの夏休み

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それからは一ノ瀬に春歌を独り占めされてしまった。実際のところ、ただ春歌に一ノ瀬が連れまわされているだけだが何せ相手が一ノ瀬というところが気にくわない。 俺は何か策はないかと一人で屋台を物色する。お好み焼きやかき氷、スーパーボールすくいなどの屋台が並ぶ中で俺はふわふわの綿あめに目を惹かれた。 「これにしようかな」 春歌も綿あめが好きだから一緒に半分こしようと思い、羞恥を捨て可愛い絵柄を選び購入する。 「お兄ちゃんは寂しいよ……」 綿あめが入った袋を抱えてトボトボ歩いていれば、目の前にこちらを見ている男がいて、俺は歩みを止めた。その男はひょっとこのお面で顔を隠していて、誰だかわからなかったが何となく知っている人のような気がした。 「もしかして……」 「こっち」 声を掛けようとすると手首を掴まれ、人混みの中を掻き分けながら進んでいくその男の背中を見つめる。その手を解こうとすることも出来たが、声を聞いて誰なのか確信した俺はただ身を任せ進んだ。 着いた場所は神社の脇の石段で、こんなにも賑わっている祭りなのにここはまるで人気がなかった。 「えっと、俺は…」 「天音くん。……だよね?」 「バレてたか」 そう言ってひょっとこのお面を外す天音くんは眉を下げて笑っていた。 「俺だってわかったらついてきてくれないと思った」 「むしろ天音くんじゃなかったら、こんなところまでついてきてないよ」 そう言うとやっと手首から手を離してくれて、しばらくの間沈黙が訪れた。そんな中俺は、天音くんが手に持っているお面を見て肩をプルプルと震わせていた。 「……っぷ」 「……?」 「はははっ……ふ、ふふっ……ひひ」 もう堪えられなくなって吹き出すと、天音くんは目を丸くして俺を見つめた。何で笑っているのかまるでわかっていないのがまた面白くて、笑いを抑えられなくなった。
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