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「夏輝に知られたときはもう終わったって思ったよ。見捨てられちゃうんだってさ。でも夏輝は違った。俺を守ってくれたでしょ?だから俺も夏輝を守りたかった。だから、突き放した。でも結果的にそれが夏輝を追い詰めたよね」
「そりゃあ悲しかったよ。でも俺知ってるよ、天音くんが庇ってくれたこと。一ノ瀬が教えてくれたんだ」
「……あいつ。」
天音くんは一ノ瀬の名前を聞くと、やっぱりかと言わんばかりに小さくため息を吐いた。
「ありがとう。俺全然知らなくて、」
「……アイツ、見かけによらず口が軽いんだね」
やれやれと首を横に振りながらも、天音くんは話を進めてくれる。
「大切な友達一人守れないような男にはなりたくないからさ、事情話して一ノ瀬に弟子入りしたんだよ」
「え?」
「アイツの家、道場があるでしょ?そこでひたすら絞られてた。稽古はスパルタだし、人の皮を被った悪魔かと思ったよ。」
「ああ…それわかる。」
だから天音くんの事情をよく知っていたのか。
「でも、それから高校は夏輝と同じって聞いて、俺の代わりに守ってあげてほしいってお願いしたんだよ。そん時は『やだね』断られたのに、こうして世話焼いてくれてる。ほんと不器用だよね」
じゃあなんだ?いつもなんだかんだ言って気にかけてくれたことも体育祭で助けてくれたことも、今まで俺にしてきたことは全部、天音くんとの約束があったからだったのか。
一ノ瀬が俺に突っかかる理由がわかってスッキリしたはずなのに、なぜかモヤモヤした気持ちになった。
「というか、一ノ瀬の話じゃなくて…」
「あっ、うん……」
学校での出来事を思い返していたらボケッとしていて、天音くんの声で意識がはっきりとした。今は天音くんとの話に集中しなければ。
「まぁ要約すると、俺は夏輝と仲直りして前みたいに仲良くしたいんだけど……」
(あぁ、もうだめだ…我慢できない。)
ずっと抑えてたものが、ポロポロと溢れ出していく。高校時代の後悔と、歩み寄ってくれる嬉しさと、天音くんの優しさでもう感情のコントロールができない。
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