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「うっ……ひぐっ……」
「なつき、…あっ、え…どうしたら泣き止んでくれる?」
俺の頰を両手で包み、親指で優しく涙を拭ってくれる。それでも涙は止まることを知らなくて、俺は嗚咽を漏らしながらただただ感情に身を委ねた。
「嬉しくて泣いてくれてるってことでいい?」
その言葉に何回も頷くと、天音くんは俺の体を優しく包み込んでくれた。
「良かった。俺拒否されたらどうしようって、すごいドキドキしてた」
その言葉通り天音くんの胸から聴こえてくる鼓動は速くて、その音を聞いていたら段々と落ち着きを取り戻してきた。
「…ずびっ……天音くん、前と全然変わったね」
「それ、夏輝がいうの?……まぁ俺は親への小さな反抗かな」
「ふふ……天音くんちょっと腹黒になった?」
「そういう夏輝は前より泣き虫になった?」
そう言って体を少し離して、コツンとおでこを擦り合わせてくる天音くんはちょっと意地悪な顔をしていた。
「やっと泣き止んだ」
「うん……」
涙で腫れてしまった目を見られたくなくて睫毛を伏せると、クスッと天音くんが笑った気がした。
「ちょっと。いつまでそうしてるわけ?」
声のする方を振り返れば、そこにいたのは肩で息をする一ノ瀬だった。よく見れば浴衣も着崩れてるし汗もかいてるし、何をそんなに急いでいたのだろう。
「今すごく良いところだったんだけどな」
「それどう考えてもトモダチの距離感じゃないけど?」
うざったい前髪を掻き上げて毒を吐く姿はどこか焦燥感に駆られているように見えて、いつもの余裕ぶってる一ノ瀬とはちょっと違うような気がした。
「友達じゃないよ」
「は?」
その時の一ノ瀬は眉間に皺を寄せ般若みたいな顔をして、黒いオーラを纏っていた。声にも感情がこもっていなくて、天音くんの発言に対して思うところがあるようだった。
「俺たち親友だから」
「天音くん…」
「夏輝は本当にそういう言葉に弱いよね。すぐそうやってホイホイ騙される」
「騙されるって人聞き悪いな」
天音くんの親友発言に感動していれば、一ノ瀬は溜息を吐いて悪態をついて横槍を入れてくる。だけどその割にはなんだかホッとしたような表情で違和感を感じた。
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