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すると一ノ瀬が足を止めて、俺も突然何かと思って自然と立ち止まる。
「夏輝、お礼っていうものは人の目を見るものだよ」
「わかってる……けど無理!!」
俺は顔を見られないようにフードの紐を極限まで引っ張ってキュッと縛りリボン結びにする。見た目は完全に不審者だが、これで確実に真っ赤になった顔を見られることはない。
「ほら、こっち見て」
「やだ!別に見なくてもいいだろ!」
「だめ。見せて」
「うっ…」
腕を掴まれて体ごと背けると、その動きを予知していたかのように正面に不敵な笑みを浮かべる一ノ瀬の顔があった。するりと紐を解かれて、もうどうにでもなれと肩を下げ、力を抜いた。
「男の恥ずかしがる顔が見たいとか趣味悪すぎ……」
「だって僕にお礼を言うために顔赤くしてる夏輝が見たいんだもの」
「…っ、なんだよそれ……キモ…」
紐を解かれてそのままフードを外され、一ノ瀬の冷たい手が俺の頬にヒヤリと触れる。一ノ瀬の目から少しでも逃れようと視線を逸らすが俺の顔を見て何を言うでもなく、気になって視線を戻した。
「僕は君が羨ましいよ」
「え……?」
心の声がポロッと溢れたように呟くものだから驚いた。
俺からしたら一ノ瀬は外見も頭脳も全部優れていて、ダメなところといえばその不器用すぎる性格だ。だからといってそれを気にする素振りなんて一度も見たことがない。一ノ瀬でも他人を羨んだり、無い物ねだりをするような人間っぽいところもあるのか。
「それってどういう……」
「あっ!おにいちゃーん!」
「……っ、はるか!!!」
一ノ瀬の言葉の真意を聞こうと口を開けば、愛しの春歌の声が聞こえてきて、俺は光の速さで一ノ瀬の胸を押しのけた。話を聞きたかったが、こうなってしまえば仕方がない。
「へへ、これね全部しまくんがくれたの!お兄ちゃんもいっしょに食べよう?」
タッタと小走りでこちらにやってきた春歌が可愛くて頭を撫でてやると、ふにゃんと頬を緩ませていちご飴を渡してくれた。
(天使だ………)
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