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串に刺さったイカを食べている反対の手で春歌と手を繋いで歩きながら、さっきのことを悶々と考える。
息が切れるほど走って会いに来たり、顔が近いと不機嫌になって、わざわざ約束を果たすために俺のことを守ったり……それから最後のダメ押しで俺が羨ましいときた。
俺が考えるに一ノ瀬は天音くんと友達になりたいんだと思う。………いや、違う。それなら俺なんかに嫉妬する理由がわからない。もしかして一ノ瀬は天音くんのことが……
「いや待て。そしたらあのキスは……」
「お兄ちゃん…?」
「ひょわっ!!?あっ、どうした?俺、なんか言ってた?」
「ううん…変なお兄ちゃん」
春歌はまん丸な目で俺を見上げ、首を傾げた。俺があげた綿あめを頬張る姿はなんとも可愛らしい。
考えても答えが出ないものは直接聞けば良いのだが、なんせデリケートな質問だから聞きづらい。しかも聞いてしまったらあのキスのことも掘り返すことになる。
「なに?」
「どうした、夏輝」
「いいいい、いやっ、別にっ」
後ろにいる父さんと一ノ瀬を振り返れば仲良さげに話していて、俺の家族の輪にいることに違和感が全くない。アイツいつもは他人の干渉を嫌う癖にコミュニケーションスキルありすぎだろ。
「ねぇお兄ちゃん、今日たのしかったね」
「ん?うん、そうだなぁ」
春歌と一緒に少ししか祭りを回ることができなかったけど、天音くんとも仲直りできたし、夏祭りに来て良かった。
「次もいっしょにいこうね」
「もちろん。来年は絶対射的で一等とる!」
「はるかは、このうさぎさんのピンが良かったからいいんだよ」
射的で一等のゲーム機が取れなくて、悔しいから一つでも何か取りたいと欲張った結果がウサギのピンだ。こんなものでも満面の笑みで喜んでくれる春歌がいてくれたから今の俺がある。本当に一緒の腹から生まれてきたのだろうか。天からのお恵みなのでは?と終始シスコン発揮する俺であった。
一ノ瀬の問題発言で疑問は残るものの、とても楽しい夏祭りだったのである。
次回、夏休み後編!
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