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「あっ、も…もしもし!」
『 ─ ガタガタガタッバタンッ 』
電話が繋がったと思ったら何かが倒れる音やドアを勢いよく閉める音が聞こえてきて、強盗でも入ったのではないかと勘違いする程には騒がしい。
「あの……?千鶴先輩…?」
『もっも、もも…もも』
「桃?」
『もしもしっ!ほっ…本当に高嶋くん?』
「はい。」
携帯には絶対俺の名前が表示されているはずなのに千鶴先輩は何度も俺の声を確認してきて、自分に電話がかかってきた事が信じられない様子だった。
『どうしたの?何かあった?』
「あの…千鶴先輩に頼みがあって……」
『高嶋くんの頼みだったらなんでも聞くよ!』
この人絶対好きな子にたくさん貢いじゃうタイプだ。今なら100万円くれって言ったらくれそうだな、なんて頭の隅で思いながら経緯を話した。
『高嶋くんが俺の部屋で……?』
「あ、無理だったら器材だけ借りて自分の部屋でやるんですけど…お菓子作りはあんまりやったことないから不安で……」
「……っ」
千鶴先輩が戸惑っているのが声だけでわかって俺が慌てて弁解すると、息を飲む音が聞こえてきた。
『いい!いいよ!俺の部屋においで!あっ………でも今すぐはちょっと…』
「明後日に試合があるみたいなので、出来れば明日が良いんですけど…」
『うん!それがいい!!!そうしよう!』
千鶴先輩は俺の頼みを快く受け入れてくれて、これで失敗せずに作れると一先ずホッとした。
「ありがとうございます!」
『ううん!こっちがありがとう。高嶋くんからの電話すごく嬉しい。』
千鶴先輩と話していると、なんだかムズムズする。行動とか言葉とか声の表情とか一つ一つが俺のこと好きだって言ってるみたいで、擽ったくなるしソワソワしてしまう。これが電話で良かった。まともに顔を合わせていたら、変な顔を見せていたと思う。
そうして俺は千鶴先輩とお菓子作りの約束を取り付けることができた。
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